出産される皆様へ

 はまだ産婦人科で出産される場合、分娩方針を十分に理解して頂き、納得して頂いた方は「出産についての承諾書」に署名をお願い申し上げます。この承諾書をもちまして出産予約とさせて頂きます。

出産方針について 

 すでに妊娠と診断され、お喜びのことと存じます。しかし「胎児は順調に発育しているのか」「出産を無事に乗り切れるのか」、など不安が頭をよぎることがあるでしょう。私たち産婦人科医は助産師と一緒に、母胎ともに安全に出産が終了するようにお手伝いをいたします。妊娠、出産は順調に進むことが理想的ですが、時には医学的処置を必要とする場合が生じます。しかも産科の特殊性として、その処置は急を要することもあり、その場でゆっくり説明する時間がないことがあります。

 そこで、皆様が出産に臨む前に、私たちが日常行っている出産時の対応の仕方をあらかじめ知っていただくことが大事と思いますので、下記の事項をご理解いただきたくお願い致します。また、出産は病気ではありません。自然に母児ともに安全に出産が終了することは理想的です。しかし、妊娠・出産では正常に経過していても、突発的に思いがけない変化がおこることがあります。そんな時でも、適切な処置をとることによって、母児の安全が確保されます。私共は、安全な出産のために日々修練を積んで、必要な処置を適切にとることを学んでいます。

陣痛促進剤の使用について 

 陣痛促進剤は、予定日を過ぎても陣痛が自然にこない場合や、陣痛がきても出産の進行がみられない場合に用いられます。分娩誘発や陣痛増強は、児にとって利益があると考えられる医学的適応によってのみ行われるものであり、病院や医師の都合で分娩誘発をするものではありません。

1)分娩誘発(予定日を過ぎても、あるいは破水したのに自然陣痛がこない場合に陣痛を誘発すること)

 予定日を2週間以上過ぎると、胎盤の機能が低下したり、赤ちゃんの循環血液量が減少すると羊水量が減少し、そのまま放置するとお腹の中で赤ちゃんの状態が悪くなることがあります。これが過期妊娠です。したがって、赤ちゃんの状態が悪くなる前に陣痛促進剤を用いて陣痛をおこします。陣痛促進剤は少量から開始し、分娩監視装置により、赤ちゃんの状態を胎児心拍で監視し、子宮収縮(陣痛の強さ)をモニターしながら投与します。具体的には、陣痛促進剤を500mlの糖液に溶かして低濃度にし、さらに微量調節のできる輸液ポンプを使っています。したがって、子宮収縮が強くなりすぎること(過強陣痛)は通常ありません。

 万一そのようなことになっても、投与量を減らせば子宮収縮を弱められますので、子宮破裂や胎児仮死などの危険は十分に回避できます。このように、細心の注意を払って陣痛促進剤を使用しておりますので、ご安心下さい。また、陣痛がないのに破水してしまった場合(前期破水)には、子宮内感染の有無を調べ、赤ちゃんやお母さんの状態を十分に検査した上で、陣痛促進剤を用いて分娩誘発を行います。子宮口が開いていない場合は、ラミナリア(海草の1種で作ったもの)を子宮口に挿入し、機械的に子宮口を開大させてから陣痛誘発を行います。

2)陣痛増強(陣痛が弱い場合)

 陣痛が徐々に強くなると子宮口は開大し、赤ちゃんは骨盤の中へ下がってきます。しかし、陣痛は来たものの、なかなか強くならない場合があります。このような場合は、赤ちゃんが長時間の子宮収縮によるストレスを被り胎児仮死になったり、また母体も疲労して分娩の進行がさらに遅れる(分娩遷延)ことになります。したがって、この場合にも陣痛促進剤を投与します。

会陰切開について 

 私たちはすべての産婦さんに会陰切開を行っているわけではありません。膣壁の伸展が十分でないために、出産の時に膣が裂けると予想される場合に行っております。膣壁の縫合には自然に溶ける吸収糸を用いて、可能な限り傷がきれいになるように努力しています。

※「溶ける糸だと抜糸はないのですか?」という質問をされますが、抜糸した方が楽になります。

急速遂娩について 

 分娩中にお腹の中で赤ちゃんの状態が悪くなることがあり、その程度がひどい場合には急いで分娩しなければなりません。この場合、子宮口が全開で、児頭が吸引分娩を行える位置まで下がっていれば、経膣分娩による急速遂娩(吸引分娩)を行い、それ以外の場合は帝王切開を行います。

1)吸引分娩

 経膣分娩の急速遂娩法として吸引分娩を行うことがあります。児頭に吸引カップを装着し、牽引して胎児を娩出させる方法です。あとわずかで児頭が娩出される程度まで下がっていれば、安全にできる急速遂娩法です。まれに頭血腫が生じることもありますが、通常自然に吸収されます。

2)帝王切開

 帝王切開は、妊娠中や分娩中に胎児の状態が悪くなった時や、妊娠高血圧症候群やさまざまな合併症、さらに母体疲労など母体の調子が思わしくない場合など、普通のお産では母児を救うことが難しいと判断されれば行われます。現在、帝王切開は手術法や麻酔法の進歩により、安全に行われるようになりましたが、100%安全な方法ではありません。帝王切開では、経膣分娩に比較すると、術中の出血や術後の血栓症や感染症の危険があります。このような合併症の頻度は高くありませんが、重症の場合は危険です。日本での妊産婦死亡率は年々減っていますが、帝王切開が関与している頻度は高くなっています。

 さらに、帝王切開をした場合は、次回の出産で子宮破裂の危険性も生じてきます。したがって、帝王切開を安易に考えてはいけません。私たちは、母体と胎児の状態をあらゆる面から十分に検討した上で、帝王切開が必要と判断した時に、細心の注意を払って施行しています。帝王切開が比較的安全な分娩様式であることは、このような努力の上に成り立っていることを十分に理解して下さい。

輸血について 

 帝王切開や鉗子分娩、さらに前置胎盤や頸管裂傷、膣壁裂傷などにより、分娩時に思いがけず大量に出血することがあります。出血多量の場合、救命のために輸血は絶対に必要ですので、輸血をする場合があることを了解しておいて下さい。これらの血液はB型・C型肝炎、梅毒、エイズなどに関する検査済みのものですのでご安心下さい。

新生児について 

 当院では母児同室を基本としています。これは出産直後からの親子のふれあいが、そのあとの親子関係や児の人格的成長に良好な影響をおよぼすという考えに基づいて行っています。しかし赤ちゃんに何らかの異常がみられた場合やお母さんが疲労などで調子がおもわしくない場合は新生児室でお預かりします。

夫立会い分娩について 

 夫立会い出産は、ご主人様に付き添ってもらい、産婦さんに対し精神的なサポートをして頂き、産婦さんの精神的、肉体的苦痛を緩和することを目的としております。産婦さんの状況によっては立会いが不可能になる場合もあります。また、出産中は医師や助産師の指示に従って頂きます。

詳しくは初めてパパになるご主人